現在までの本研究の成果は次の4点に要約される。 第一は、ビブリオ菌の培養を行ったことである。名古屋大学大学院理学研究科から、海洋性ビブリオ菌(YM4)を譲り受けた。通常一本のべん毛を有するこの菌では、べん毛が鞘をかぶっているため、鞘のないものに比べて太く、観察しやすいという特徴がある。菌の培養に必要な装置を購入し、菌の継続的な培養が可能になった。 次に、遊泳するビブリオ菌の観察を行ったことである。べん毛は非常に細く、通常の明視野では観察することができない。そこで微小物体からの散乱光を捕えることのできる暗視野顕微鏡を導入した。光源をハロゲンランプからより輝度の高い超高圧水銀ランプに交換することにより、べん毛形状の観察が可能になった。この顕微鏡を用いた写真撮影により菌の寸法の測定を行い、ビデオ撮影により遊泳速度の測定を行った。 第三は、細菌の運動解析のための手法をいくつか確立したことである。現在までに抵抗力理論、細長物体理論、境界要素法による解析が可能になっている。いずれも細菌のまわりのストークス流れを扱うものであるが、それぞれ長所、短所があり、互いを補完するものである。抵抗力理論では、方向転換を含めた細菌の運動軌跡の性状の検討が可能である。細長物体理論は、遺伝的アルゴリズムなどによる細菌形状の最適化に適用することができる。また、先に述べた観測値を用いて、境界要素法による解析を行ったところ、べん毛モータの回転速度を推定することができた。 最後は、細菌の運動様式を模倣するロボットを提案したことである。細菌のべん毛による遊泳は、水中を運動するマイクロロボットの良い規範となるものと考えられる。そこで、細菌型の水中自走ロボットとして、二本のべん毛をもつモデルを提案した。簡単なルールを学習することで、ロボットが目的地に到達できることを示した。
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