研究概要 |
本研究では,ディーゼル噴霧の自発着火における混合気形成および着火機構の物理・化学過程について得られた知見を総合して,合理的に着火過程および燃焼過程を記述する理論を確立することを目的とする.本年度は,昨年度に提案した確率過程論モデルを基礎とする理論モデルを種々のディーゼル機関の条件に適用し,着火遅れに及ぼす空気温度,圧力,燃料噴射率,ガス流動条件の影響を再現・解析した.とくに,噴射条件,温度,圧力による吸熱の速さの変化を記述し,高圧噴射時の着火遅れを再現できることを示すとともに,着火過程の及ぼす吸熱の作用について考察した.その内容を以下に示す. (1) 吸熱率の変化 噴射条件および周囲温度・圧力による吸熱率の変化を適正に評価する式を求め,これにより広範囲の噴射圧力・ノズル径における着火遅れを合理的に記述できることを示した. (2) 高圧噴射時の燃焼経過 高圧噴射時の燃焼経過について予測し,初期温度が低くて着火遅れが長いと初期燃焼期での発熱量が多く燃焼期間が短くなること,拡散燃焼期で熱発生率が極大値を示す時刻が噴射終了時期とほぼ一致することなど実測の特徴を再現できることを明らかにした. (3) ディーセル燃焼条件への適用 現用のディーゼル機関における着火遅れ,燃焼経過予測に適用し,着大遅れから初期燃焼に至る経過,燃焼期間については実測の傾向をほぼ再現できることを示した.この際,初期燃焼時の火炎の急激な膨張によってエントレイン空気量が増加する効果が重要であることが明らかになった.しかし,実測と比較して,初期燃焼のピーク時期が遅い上に,拡散燃焼における鞍形の経過が認められない.これは噴射率を噴射期間中一定としている点や,混合場の巨視構造を考慮していない点などが原因と考えられ,今後検討を行う予定である.
|