研究概要 |
産業における部品の微小化の要求にこたえるには,微小部品をその力学的特徴に基づいて,変形・破壊・飛散を起こさないように,付着力に抗して高精度に位置決めする技術を確立することが不可欠である. 本研究の目的は,微小物体の力学的挙動の制御手法を確立するために,エネルギーで記述した微小世界の力学体系(エネルギー遷移モデル)を構築することである.そのために必要な実際の微小物体の挙動に関する知見は電子顕微鏡下でのマニピュレーション時の力・変位のその場計測により実験的に獲得する. 本年度はまず実際の電子顕微鏡下での微小物体ハンドリングにおける力や変位の関係を計測する「その場」力計測システムの構築とそれを用いた実験事実の蓄積を行なった.マニピュレータの対象物体を置く基板の代わりにカンチレバ-を取り付け,先端のたわみをファイバプローブ式レーザ測長センサで計測することにより工具-部品間,部品-部品間,部品-基板間に作用する力が0.1nNの分解能で計測できる.工具・部品・基板の材質や表面状態,電位,相対運動の軌跡は様々に変化させることができる.直径20μmの金属球,直径2μmの高分子球について付着力を系統的に計測したところ,静電力の影響が大きいこと,表面の微細な凹凸などの不確定要因の影響が非常に大きいこと,表面の変形のために付着力は経時変化を示すことが明らかになった. また,これと並行してエネルギー遷移モデルの骨格部分を検討した.まずは表面エネルギーと弾性エネルギーを考慮した力学系についての荷重-変位特性などを考察した.その結果,微小部品に蓄積される弾性エネルギーと工具に蓄積される弾性エネルギーの両方を考える必要があり,工具の剛性が部品の位置決め精度に大きな影響を与えることが明らかになった.
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