研究概要 |
産業における部品の微小化の要求にこたえるには,微小部品を変形・破壊・飛散を起こさないように,付着力に抗して高精度に位置決めする技術を確立することが不可欠である.本研究は,微小物体の力学的挙動の制御手法を確立するために,エネルギーで記述した微小世界の力学体系(エネルギー遷移モデル)を構築することを目的として進めた. 昨年度は,電子顕微鏡下での微小物体ハンドリングにおける力や変位の関係を計測する「その場」力計測システムを構築し,実験事実の蓄積を行なった.その結果,静電力の影響が大きいこと,表面の微細な凹凸などの不確定要因の影響が非常に大きいこと,表面の変形のために付着力は経時変化を示すことが明らかになっていた. 本年度は,これらの実験事実に基づき,微小物体の力学系をどのように理解すべきかを検討した.得られた実験事実は,微小物体の力学は当初予想したような一意に決まる表面エネルギーで記述できる力学系ではないことを示している.ある程度の時間が経過したら物体どうしは結合しており,物体を持ち上げるとはその界面の亀裂を成長させ破壊することと解釈すべきである.これらの考察に基づき,微小物体の力学系をモデル化するには,マクロ世界の力学モデルに付着力の項と静止摩擦力に相当する抵抗モーメントの項をあらたに付け加えればよいことがわかった. 電子顕微鏡下で微小球を持ち上げたり置いたりする実験を系統的に行なったところ,このモデルが妥当であることが示せた.さらにこのモデルに基づいて高い確率で微小物体を持ち上げるための動作軌道,高い精度で目的位置に位置決めするための軌道を導きだし,それが実際に有効であることを示した.
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