生体においては免疫系から繊毛に至るまで単純な要素を多数用いることによって、全体として高次の機能を果たす例が多い。このような生物の仕組みに学び、マイクロマシンを多数配列した分布型機械システムの構築について研究した。単位になるマイクロマシン(セル)は、センサ、アクチュエータ、電子回路を一体集積化したものであるが、その製作法と分散協調制御法を研究した。研究対象には、マイクロアクチュエータのアレイを各セル内のセンサと回路で制御する、知能化した分散搬送システムを選び、以下の結果を得た。 (1) 搬送システムの一端に供給した種々の物体を認識して、望みの位置と方向に合わせる作業を例題として、所定の機能を個々のセルの動作の総合として発揮させるため必要なセルの論理構成と動作決定ルールを研究した。自分自身のセンサ及び近傍との通信で得た情報に基づいて自分の行動を決定するために、二次元セルラー・オートマトン理論を拡張した制御器について、遺伝的アルゴリズム(GA)と、搬送システムの数理シミュレータとを組み合わせて行動決定のルールの最適化を行った。100世代程度の世代交代の後、位置決めと方向合わせが可能な解を得た。 (2) 物体の形状を認識してそれを別々の方向に運ぶタスクを考え、これを分散情報処理とアレイ化アクチュエータの協調動作で実行するシステムを研究した。このシステムの要素となる、アレイ化アクチュエータ、分散情報処理による形状認識(多角形の頂点を検出)を行う集積回路チップ、高電圧ドライバチップを製作し、動作を確認することができた。 (3) 半導体プロセスによりアクチュエータとセンサを作ったチップと集積回路チップをハイブリッド集積化する技術を開発した。マイクロアクチュエータとセンサのチップの一端を雄型のコネクタ状に加工し、それを回路チップの上に開けた微細な穴に差し込んで、信号の伝達を行う構造を考案した。また、基板を貫通する微細孔を通じて、回路チップとマイクロセンサ・アクチュエータの間の電気的、機械的な接続が可能なことを示した。このようなハイブリッド集積技術を用いる、回路の製造プロセスとマイクロマシンの製造プロセスを全く独立して行うことができるため、プロセス設計や歩留まりの点でも極めて有利である。
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