研究概要 |
強誘電体におけるサイズ効果,すなわち微粒子の粒径や薄膜の膜厚減少に伴うキュリー点のシフトや誘電率の値の変化などの原因を探ることを目的として研究を行い,初年度の今年は,以下の結果を得た.(1)アルコキシド法を用いて,粒径数十nm以下で,平均粒径の異なるチタン酸鉛(PT)およびチタン酸バリウム(BT)の微粒子を作製し,X線回析によって正方歪み(c/a比)を粒径の関数として測定した.その結果,PTのc/a比は10nm以下で急激に1に近づき,2nmの微粒子では室温において1.0となった.すなわち,このサイズの微粒子は室温で強誘電性を失い立方相である.これより,強誘電状態が安定に存在するための「臨界粒径」は2nmから10nmの間にあるものと推定される.また,格子定数は10nm以下でバルクの値より大きくなり,表面において格子の緩和が起こっている可能性があることを見出した.この緩和が起こるサイズはBTでは40nm程度であり,PTのそれと比べて数倍大きい.表面における格子緩和がサイズ効果とどのように関係しているのかは現在検討中である.(2)サイズ効果を応用した高誘電率材料を得る試みの一つとして,シリコン基板上にナノメータオーダーで制御してPZT薄膜を堆積することを試みた.本年度は,PZTを堆積させる基板表面にレーザアブレーション法によって厚さ数十nmのPT薄膜を堆積し,これをシ-ド層として配向性のよいPZT薄膜を作製することを試みた.その結果,室温でシ-ド層を作製しその後熱処理を加えることにより,c軸配向下PZT薄膜を得ることができた.(3)強誘電体におけるサイズ効果の起源は表面における局所電界の減少にあると考え,局所電界のサイズによる変化がキュリー点のシフトに及ぼす効果を解析中である.
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