研究概要 |
本研究は,強誘電体微粒子の粒径や薄膜の厚さが100nmのオーダーに達するとサイズの減少に伴ってキュリー点の低下や誘電特性の変化が生ずる効果(サイズ効果)のミクロな機構を解明するとともに,強誘電体薄膜をデバイスに応用するときの問題点を明らかにすることを目的として行っているものである本年度はその2年目にあたり,以下の結果を得た. 昨年度のチタン酸鉛(PT)に引き続き,本年度はチタン酸バリウム(BT)の微粒子について,X線回折によって,結晶構造の粒径依存性を詳しく測定した.その結果,BTの室温における結晶構造は粒径の減少に伴って正方相から立方相に近づき,20nmの微粒子は室温において立方相になることを明らかにした.こうして,室温において強誘電相が安定であるために必要な大きさ(臨界粒径)はPTで2から8nm,BTで20nmであることを明らかにした.この結果が表面における格子緩和によるものであると考え,以下の二つの仮定の下に微粒子によるX線回折パターンを計算した.(1)表面における最大緩和量はサイズに依存しない,(2)緩和は表面から指数関数的に減少し内部ではバルクの値に近づく.こうして得られた計算結果を,実験から得られた回折パターンの半値幅とピーク位置の関係と比較して,最大緩和量及び緩和の内部への進入深さを決めた.その結果,表面における最大格子緩和はPTで0.035nm,またBTで0.015nmであり,それらはPTでは表面から1.5原子層目で,またBTでは8原子層目で表面の値の1/eになることが分かった.これらの緩和の進入深さは,これまでにサイズ効果を説明するために理論的に得られている両物質の外挿距離とよく一致しており,サイズ効果には表面における格子緩和が深く関係していることが予想される.
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