研究概要 |
本研究では,傾斜した単結晶基板上に強磁性Coのナノワイヤーの作製を目標としているが,本年度は,単結晶基板上へのCo超薄膜のMBE成長とその表面構造の解析および磁気異方性について検討を行った。また,磁性細線を観察する手段としてMBEチャンバと連結した超高真空中で観察可能な走査トンネル顕微鏡の作製を行った。 本年度のおもな成果を以下にまとめる。 1.貴金属/Co/貴金属サンドイッチ構造のCo超薄膜をMBE装置で作製し,その膜構造をRHEEDによるその場観察と成膜後のXRDによって詳細に調べた。貴金属としては,下地層とCo層のミスマッチをパラメータとして膜構造の変化の様子を調べるため,ミスマッチの大きい順にAu (15%), Pt (11%), Rh (7%), Cu (2%)の4種類について試料の作製を行った。その結果,(111)面の下地層上には,すべてfcc Coの(111)面が成長し,(100)面の下地層には,Auを除いてfcc Coの(100)面が成長した。RHEEDによるストリークの間隔より,膜面内の格子定数をCo層厚に対して計測することにより,格子ミスマッチが徐々に緩和していることが分かった。これらの試料の垂直磁気異方性を測定したところ,(111)膜は,Co層厚が薄くなるにつれて垂直異方性が増加し,垂直磁化膜となること,(100)膜は,全体に垂直異方性が小さいことが分かった。垂直磁気異方性の面方位依存性やミスマッチによる違いは,磁気弾性界面異方性による磁歪の逆効果によってよく説明できることが示された。 2.成膜直後の膜表面を観察可能な走査トンネル電子顕微鏡の作製をおこない,MBE室の隣に設置した超高真空容器のなかに据え付けた。STMの性能を確認するため,まず,単結晶Au (111)面と(100)面の観察を行ったが,今のところ表面処理が不完全できれいなステップは観察されていない。しかし,局所的に平らな表面が存在し,このような面では,(111),(100)面ともAu原子の像を観察することができた。
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