有機EL素子、有機ELを用いたディスプレーの研究開発は近年盛んに行われ、一部実用に供されるに至っている。しかしながら、色素分子、高分子の発光現象を取り上げてみても、電荷の注入過程およびその発光機構が十分に解明されておらず、有機分子、高分子の積層構造、特に分子レベルで積層し作製した有機量子井戸構造・ナノ構造によりその発光特性を大きく制御することが可能であると考えられる。 本研究は基礎的な物性評価において大きく2つの目的をもって行われた。一つは有機量子井戸構造・ナノ構造における新物性の開拓であり、もう一つは有機ヘテロ構造における界面の制御である。それらの物性評価の結果をもとに、それらの特性を活かした発光表示素子の応用を行う事として、平成9年度から平成11年度の3年間にわたり科学研究費補助金基盤研究(B)(2)の補助金を得て「有機量子井戸構造・ナノ構造の電子・光物性と発光表示素子応用に関する研究」を行った。 基礎物性として有機量子井戸構造における電気的特性、光学的特性を明らかにし、ヘテロ界面における励起子形成のメカニズム、エネルギー移動過程の解明を行ない、有機量子井戸構造・ナノ構造を用いることにより高効率の発光を得るための量子井戸構造・ナノ構造の作製、さらにそれらのIn-situ測定を通して特異な物性とその起源、そのダイナミックスを明らかにする事を行った。 高効率な有機EL素子を作製するために、発光効率の高い発光材料の開拓を行なうのみならず、電極-有機界面(陽極-正孔輸送層、陰極-電子輸送層)の界面状態を制御することにより、有機層へのキャリア注入効率の改善を図り、発光効率の向上を検討した。 さらに、発光表示素子作製に必要な、3原色の発光素子について、駆動系も含めたカラー表示素子の検討を行なった。 これらの検討結果は有機発光素子の研究の基礎を築き、今後の発光表示素子の開拓に大きく貢献できるものと期待する。
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