時間分解テラヘルツ分光法を用いた半導体ナノ構造中のダイナミックな伝導現象の解明

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09450138
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 助教授 (10183097)
• 研究分担者: 荒川 泰彦 東京大学, 国際・産学共同研究センター, 教授 (30134638) ; 榊 裕之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90013226)
• キーワード: テラヘルツ光 / 光伝導アンテナ / 半導体ヘテロ構造 / トンネル効果 / ブロッホ振動 / プラズマ振動 / 量子井戸 / フェムト秒

研究概要

テラヘルツ(THz)領域で動作する素子の実現には、半導体量子構造中などで起きる超高速現象の探索や電子波束のダイナミクスの解明が必要不可欠である。超高速の電子波束の運動は電磁波の放射を伴うため、この電磁波の放射を光伝導アンテナを用いて観測することにより、電子波束の動きを可視化する事ができる。本研究では、半導体ヘテロ構造中の超高速トンネル効果や電子のプラズマ振動からのTHz光放射を実時間領域で観測し、そのダイナミクスについて検討を行った。本年度の研究成果は、以下の通りである;
1.量子力学的に結合した量子井戸間では、電子がトンネル効果により高速に井戸間を往復運動(ブロッホ振動)する。本研究では、結合2重量子井戸構造からの時間分解THz光発光特性を測定することにより、2つの量子井戸間を電子波束が往復運動することに因る振動的な電磁波の観測に成功した。その結果、電子波束が2つの量子井戸間を約1ピコ秒で往復運動すること、またブロッホ振動の緩和時間が低温で約6psであることがわかった。この緩和時間を制限している主な散乱機構は、イオン化不純物散乱であると考えられる。
2.半導体ヘテロ構造中のもう一つの超高速現象として、2次元電子のプラズマ振動について検討を行った。変調ドープ量子井戸構造表面にプラズマ振動を放射電磁界モードに変換するためのグレーティングを形成した試料からのTHz光放射波形を測定したところ、光パルス入射直後の電磁波放射に続いて、2次元電子プラズマ振動による振動的な電磁波放射が観測された。光パルスによる2次元プラズマ振動の励起の機構は明らかではないが、光励起により生じた電子-正孔を2次元電子系がスクリーンしようとして電子系にダイナミックな振動が誘起されるものと考えている。

研究成果

• [文献書誌] N.Sekine: "Terahertz emission from qunatum beats in coupled quantum wells" Japanese Journal of Applied Physics. (印刷中).
• [文献書誌] K.Yamanaka: "Far Infrared Photoresponse of the AlGaAs/GaAs Low-Dimensional Electron Systems Constricted by Split-Gates" Soild State Electronics. (印刷中).
• [文献書誌] H.Sakakibara: "Interaction effects on cyclotron resonance in semiconductor double quantum well structures" Surface Science. (印刷中).
• [文献書誌] K.Yamanaka: "Far Infrared Photoresponse of the Diagonal Magnetoresistance of the Two-Dimensional Electron System near the v=1 Spin-Gap Quantum Hall State" Physica Status Solidi(B). 204. 310-313 (1998)
• [文献書誌] Y.Shimada: "Time Constant for High-Field Domain Formation in Multiple Quantum Well Sequential Resonant Tunneling Diodes" Japanese Journal of Applied Physics. 36・3B. 1944-1947 (1997)
• [文献書誌] Y.Shimada: "Sequential Resonant Magnetotunneling through Landau Levels in GaAs/AlGaAs Multiple Quantum Well Structures" Physica Status Solidi(B). 204. 427-430 (1998)
• [文献書誌] K.Hirakawa: "Mesoscopic Physics and Electronics(分担執筆)" T.Ando et al.ed.,Springer, 282 (1998)