気相成長法によりSOI基板上に形成したSiGeの単一量子井戸と三重量子井戸試料を、トランジスタの製作プロセスにおける最も厳しい条件(850°C、30分間)で熱処理して特性の変化を調べ、プロセスの設計情報を取得した。測定方法は電子顕微鏡(量子井戸の平面及び断面観察)、二次イオン質量分析法(量子界面の急峻性)、フォトルミネッセンス(77Kでの量子井戸の光学的な評価)である。熱処理前と比較すると、欠陥密度は10^<-6>cm^<-2>以下とほぼ無欠陥に近く、格子の歪緩和による転位は発生しなかった。しかし、界面の急峻性の劣化(1/e decay factor=0.61nmから0.91nmに増加)が見られ、フォトルミネッセンスのピーク値が熱処理前に比べ、単一量子井戸の場合で8meV移動し、三重量子井戸の場合で18meV移動することが明らかとなった。一方、試作したSOI基板上のSiGe単一量子井戸チャネルのP型電界効果型トランジスタについては、良好なトランジスタ特性(ゲート電圧-ドレイン電流)が得られ、パッシベーションの酸化膜とSiGeまたはSiとの界面を介したリ-ク電流は殆ど無視できるほど小さかった。これらの詳細な解析と三重量子井戸のトランジスタの測定と解析について次年度に行う予定である。 本年度に高速のワークステーションを購入し、シュレディンガー方程式に基づいた、当トランジスタ構造におけるデバイスシミュレータ、特にホールの状態解析を中心としたセルフコンシスタントなシミュレータの開発に着手した。測定データ用のデータベースと測定データ処理用のプログラムはWindowsNT環境で開発し、ほぼ完成度の高いものが得られた。今後は必要に応じて修正を加えて行く予定である。
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