研究概要 |
電気自動車では,電気モータの速くて正確なトルク応答を活かすことによって,ガソリン自動車にはできない高度な運動制御が可能である。本研究は,制御によってタイヤと路面の粘着特性を飛躍的に向上させる増粘着制御(トラクションコントロール)と,2次元での運動を考えた制御(たとえばヨ-レート制御)に的をしぼり,電気自動車ならではの新しい性能を追求するものである。 本年度は,増粘着制御や2次元の運動制御の基礎理論展開と,その実証が可能な高性能電気自動車の製作を主たる目的とし,下記のような成果を得た。 ●粘着現象の解明 タイヤによって駆動力を生じる部分のモデルを作成し,定スリップ率曲線という考え方の導入を行った。微小変位に対する系の挙動を表現する線形モデルを導き,モータトルクからスリップ率までの伝達関数を導いた。 ●増粘着制御の提案 基本的には,車輪が小さなスリップをおこした場合に,ミクロな時間スケールでみれば大きなトルク垂下特性を示し,マクロな時間スケールで見れば定トルク特性になるようにできればよい。これを実現する具体的な手法として,モデル追従制御とスリップ率制御という2つの方策を提案した。その理論展開を行うとともに,すでに開発しつつある自動車の詳細モデルや近似モデル等を用いたシミュレーションを行った。制御器のロバスト化についても検討した。 ●新しいモーション制御の提案 今回制作する電気自動車は,増粘着制御のような1次元的な運動だけでなく,インホイルモータを複数使用した2輪ないし4輪駆動車であるため,2次元的な車両制御が可能である。ここではその例として,モデルマッチング制御を検討し,ロバスト追従サーボ系の導入によるロバスト化についてシミュレーションを行い,良好な結果を得た。 ●実車の製作 電気自動車を全くのゼロから作り上げる手間を低減するため,エンジンを取り外したガソリン車の4輪にインホイルモータを埋め込む。モータおよびコントローラ(ブレーキ制御を含む)を設計,発注し,3月初頭に納入を完了した。電池,充電器は別途入手しており,鋭意組み立て作業に励んでいる。 ●制御装置の製作 新しい制御を行う頭脳部分は,各種センサ情報を読み込み,演算された電流指令入力を出力するコンピュータである。光学式シャフトエンコーダから瞬時車速を推定する瞬時速度オブザ-バの機能や,基本的な保安機能も持たせる予定であり,現在設計中である。
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