研究概要 |
今年度は主としてシステム同定の側面から研究を行ない,モデル集合の概念の重要性と特徴づけにおいて成果を得ることができた. システム同定は未知のシステムのモデルを事前情報と入出力データから構成する手法である.この事前情報や入出力データは,雑音で汚されていたり量が不十分であるなど不完全であるのが普通である.したがってシステム同定では不完全な情報から未知システムを求めなくてはならず,未知のシステムは一意には決定できない.この意味で同定問題は本質的にill-posedな問題であるといえる.研究の結果,従来の同定法の本質はこのill-posed性を排除してモデルを一意に決定するために滑らかさなどの評価基準を導入しているというところにあること,これに対して,モデル集合に基づくアプローチの特色は,このill-posed性を我々の知識の不完全さを表現するものとして積極的に評価し,単一のモデルではなくモデルの集合を求めようというところにあることが認識された. 上で述べたことにより,モデル集合の大きさを定量評価すれば,それは我々の情報の不完全さの定量評価になる.このことに基づいてある同定手法の解析を行ない,知識の不完全さの量は同定を行なう際の事前情報に大きく依存することがわかった.また,学習とはこの知識の不完全さが時間とともに減少していくということであり,この考え方に基づいて学習との結び付きについて考察した. 上記以外にも時変システムの同定,エンジンや高炉の制御など,理論・応用の両方にまたがる多方面から,モデルおよびモデリングに対するアプローチを行なっている. 次年度は主としてシステム制御の側面から研究を行ない,特にモデル集合の大きさと制御のしやすさについて考察する予定である.また,応用の方面からの研究成果とも組み合わせて構築した理論の具体的応用についても考えていく予定である.
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