研究概要 |
日本ではこれまで歴史的な土木構造物が重要文化財としてほとんど保護されてこなかったため、都市化による開発や防災を理由として、土木史上の貴重な遺産が次第に姿を消しつつある。その一方で、歴史的石造構造物の中には材料の劣化による強度低下や耐震性が懸念されるものもある。歴史的石造構造物の崩壊は貴重な文化財の消失であるのみならず、人命への大きな危険をはらんでいる。本研究は、歴史的な土木構造物の中で、特に石造構造物の保存に構造および材料工学の立場から注目したものである。わが国には歴史的な石橋、石垣、石塔など、「ヨーロッパは石、日本は木の文化」という一面的認識を覆すだけの石の文化財の蓄積がある。歴史的、文化的価値の高い石造構造物の石材の種類、岩石学的特性、劣化状態などを明らかにするとともに、その残存強度や耐震性の評価法を確立して今後も永く良好な状態で保存していくことは、構造・材料工学に携わる科学者の重要な使命と考える。本研究の成果は次の通りである。 1.石材やコンクリートのような脆性材料について、骨材、その間を充填するマトリクス、および骨材とマトリクスの界面の特性を考慮したメゾスコピックなコンピュータモデリングに基づく破壊過程のシミュレーション法を提示した。この成果を、セメント・コンクリート論文集51号(1997年)に発表した。 2.一方、大寸法の実構造物では、非均質材料をマクロスコピックに等方性均質材料と見なし、構造解析と破壊力学的考察を行った。これらの成果を、土木学会構造工学論文集Vol.43A(1997年),Engineering Computations Vol.15,No8(1998年),土木学会論文集No.627(1999年)に発表した。 3.古い石造アーチ橋を個別の石材ブロック要素からなる不連続体として扱い、石材の変形および強度特性を要素境界面の分布バネに集約させる非線形解析モデルを提案した。これらの成果を、土木学会構造工学論文集Vol.43A(1997年)及びProc.8th International Conference on Structural Faults and Repair,London(1999年)に発表した。
|