2元合金の相互拡散やカーケンドール効果について、単相拡散対を用いて得られた実験結果はダーケンの関係式によって全く矛盾なく説明されてきた。しかし、多相拡散対を用いて得られた相互拡散係数や固有拡散係数は単相拡散対から得られたものと一致しない場合がしばしば見いだされているが、そのような差異がなぜ生じるのか従来の理論では説明することができない。本研究は多相拡散対における拡散現象を明らかにするため、拡散性に著しく差異のある金属(Au-Fe系およびAu-Ni系合金)により拡散対を構成し、相互拡散実験、マルチプルマーカー実験およびトレーサー拡散実験を行った。得られた成果は以下のようである。 (1)Au/α-FeとAu/γ-Fe多相拡散対における相互拡散の比較から、拡散性に著しい差異のあるAuとγ-Fe間の反応拡散においては相互拡散における基本式であるダーケンの関係式が成立しないことが示された。(2) Au/α-FeとAu/γ-Fe多相拡散対における固有拡散係数の比較から、γ-Feの著しく低い拡散性がAu側固溶相全体の相互拡散を遅延させており、γ-Fe側からの空孔流の不足に起因しているものと思われる。(3)Au-Fe固溶体(0-36at%Fe組成)におけるAuおよびFeのトレーサー拡散係数を決定し、ダーケンの関係式から相互拡散係数を算出した。この値はAu/γ-Fe多相拡散対から実験的に決定した相互拡散係数の値より実験組成範囲全体にわたって大きいことが示された。(4)Au-Ni系において拡散性の差異が大きい場合単相拡散対でもダーケンの関係式が成立しない場合があることが明らかにされた。 以上より、拡散性に著しい差異のある金属間で構成された拡散対においては空孔濃度の平衡を仮定したダーケンの関係式は成立しないことを明らかにした。
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