準結晶合金は基本的には金属であり、暗電流に比べ光電流が非常に小さいので、測定感度が高く、励起光に対する光電流の位相遅れから局在準位の分布を求めることが可能な変調光電流法を採用した。解析に用いたモデルは、光キャリアの生成プロセスとして、伝導帯に直接光励起されるK_1と、局在準位に光励起され、そこから伝導帯に熱励起されるK_2プロセスの2つを考慮している。通常は、局在準位への光励起は無視できるので、K_1プロセスのみを考慮したモデルで解析される。測定された位相遅れの周波数依存性から、このモデルに基づいて光電流の周波数依存性を計算し、実測と比較することで、モデルの妥当性を確かめる。アモルファスボロンの場合はK_1プロセスのみを考慮したモデルで解析可能であったが、β菱面体晶ボロンとAl-Pd-Re準結晶の場合はK_2プロセスも考慮したモデルでないと解析できなかった。準結晶合金において、光電流が観測されたのは本研究が初めてである。β菱面体晶ボロンでは、内因性アクセプター準位が存在すると考えられているが、その密度が高いために、そこへの光励起が無視できないものと考えられる。準結晶では、フェルミ準位近傍に擬ギャップが形成され、そこでは電子が局在化していると考えられている。この光電流測定の結果は、これらに加えて、擬ギャップの外の状態が拡がった状態であることを示している。準結晶合金への変調光電流測定の適用という新しいアプローチは、これまでフェルミ準位での状態密度が異常に小さい金属であると考えられてきた準結晶合金を、ギャップ内の局在状態の密度が異常に大きい半導体であると捉え直すことにより、その電子状態を解明する道を切り開くものである。
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