前年度に引き続き、準結晶合金の中で最も電気低効率が高く、半導体的な電気伝導特性を持つAl-Pd-Re系において、擬ギャップ周辺の電子状態や状態密度を調べることを目的として、これまでに我々が構築してきた変調光伝導の測定システムを使って、光電流の強度と位相差(励起光の位相との差)を測定した。変調光電流振幅は励起光強度に比例しており、位相遅れには変化が見られなかったことから、光励起キャリアは単分子再結合過程により消滅していると考えられる。一方、位相遅れの変調周波数依存性は数百Hzより高周波数側で90°を越えたため、前年度までの解析では、伝導帯に直接光励起されるプロセスと、局在準位に光励起され、そこから伝導帯に熱励起されるプロセスの2つを考慮した。ところが、このモデルでは、位相遅れの周波数依存性は通常の半導体と同様に顕著な温度変化を見せるはすであるが、温度依存性は極端に小さい。そこで、キャリアの励起と単分子再結合のみという簡単なモデルを検討した結果、5Hzから300Hzの測定値は、このモデルで良く再現されることが分かった。高周波数側では、信号強度のノイズに対する比が小さくなり、位相が90°を越えることの真偽がはっきりしない。モデルによる解析から求めた、再結合寿命が通常の半導体より数桁大きく、光キャリア密度は、暗中キャリア密度の1%程度であり、これは光電流の暗電流に対する比と同程度である。したがって、光キャリアの易動度が暗中キャリアのそれと同程度であると推察された。このことは、同程度の易動度を持つ細いバンドが密に集まったようなバンド構造(近似結晶におけるバンド計算から提案されている状態密度のスパイキー構造に対応する)において、キャリアが緩和と熱励起を繰り返しながら時間をかけてフェルミ・エネルギーへ近づくという描像で定性的に説明できる。より定量的な解析を他のアルミ系準結晶における測定と共に、次年度に行う予定である。
|