研究概要 |
準結晶合金の中で最も電気抵抗が高く、半導体的な電気伝導特性を持つAl-Pd-Re系の擬ギャップ周辺を前年度に引き続き、また比較のため、純粋およびVドープしたβ菱面体晶ボロンのギャップ周辺の、電子状態や状態密度を調べることを目的として、これまでに我々が構築してきた変調光伝導の測定システムを使って、光電流の強度と位相差(励起光の位相との差)を測定した。本年度は、レンズを使って励起光をチョッパー・ブレード上で点になるように集光させるように測定システムを改良することにより、励起光の波形を整え、位相差測定の精度を上げることに成功した。Al-Pd-Re準結晶と同様に、ドープしたかどうかに関わり無くβ菱面体晶ボロンでも、変調光電流振幅は励起光強度に比例しており、位相遅れには変化が見られず、光励起キャリア単分子再結合過程により消滅していると考えられる。一方、位相遅れの変調周波数依存性は、Al-Pd-Re準結晶の場合、温度依存性が極端に小さく、通常の半導体と異なるキャリアの励起と単分子再結合のみという簡単なモデルで,5Hzから300Hzの測定値が良く再現されることを再確認した。これに対して、純粋なβ菱面体晶ボロンでは、位相遅れの周波数依存性は通常の半導体と同様に顕著な温度変化を見せた。Vドープβ菱面体晶ボロンの場合は、温度依存性が小さくなり、位相遅れの絶対値が90度に近づき、前二者の 中間的な振る舞いとなった。また、光電流強度の温度依存性は、純粋なβ菱面体晶ボロンでは、温度の上昇と共に増大するが、Vドープの場合はAl-Pd-Re準結晶の場合と同様に、温度の上昇と共に減少した。以上の結果は、電気伝導率の温度依存性や光学的伝導率の波数依存性と同様に、β菱面体晶ボロンのA_1サイトをVが占有することにより、クラスターの多重殻構造がアルミニウム系準結晶の近似結晶のそれに近づき、電子状態も近づくという、我々の提案している正20面体クラスター固体の統一的描像を支持する結果である。
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