準結晶合金への変調光伝導測定という新しいアプローチは、これまでフェルミ準位での状態密度が異常に小さい金属であると考えられてきた準結晶合金を、ギャップ内の局在状態の密度が異常に大きい半導体であると捉え直すことにより、その電子状態を解明する道を切り開くものである。本研究により以下の知見が得られた。 1)光電流振幅は、励起光強度に比例しており、位相遅れには変化が無かったことから、光励起キャリアは単分子再結合過程により消滅している。 2)位相遅れの周波数依存性が、通常の半導体と異なりその温度依存性が極端に小さいことから、励起キャリアの局在準位への捕獲・熱脱離という過程の無い、キャリアの励起と単分子再結合のみを考えた簡単なモデルで解析できた。 3)解析の結果、再結合寿命が10msec程度と通常の半導体より数桁大きく、一方、光キャリアの易動度は暗中キャリアのそれと同程度であった。また、励起エネルギーが2.5eVでも1.6eVでも変化が無かった。このことは、擬ギャップを越えて励起されたキャリアが、擬ギャップ付近まで速やかに緩和し、その後、擬ギャップ内の易動度が同程度の状態を、緩和と熱励起を繰り返しながら時間をかけてフェルミ・エネルギーへ近づくという描像で定性的に説明できる。 4)比較のため測定したβ菱面体晶ボロンの場合は、位相遅れの周波数依存性は通常の半導体と同様に顕著な温度変化を見せ、光電流強度は温度の上昇と共に増大した。Vをドープすると位相遅れの温度依存性は小さくなり準結晶のそれに近づき、光電流強度は準結晶の場合と同様に温度の上昇と共に減少した。以上の結果は、β菱面体晶ボロンのA_1サイトをVが占有することにより、クラスターの多重殻構造がアルミニウム系準結晶の近似結晶のそれに近づき、電子状態も近づくという、我々の提案している正20面体クラスター固体の統一的描像を支持する結果である。
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