研究概要 |
熱的・化学的に安定な窒化アルミニウム中に磁性体(Co,Fe,FeCo)微粒子を分散させた複合膜の低コスト合成法を確立し,所定の電気抵抗,飽和磁化を示すナノコンポジット膜を創製することを目的とした.今年度は,昨年度の研究成果を踏まえて,窒素ガス/アルゴンガス混合ガス比を増加させて複合膜を合成し,堆積時の膜の微細構造および熱処理過程にともなう電気的・磁気的な特徴をまとめた.また,購入した膜硬度計の測定精度についての炭素と遷移金属を同時堆積させた膜についてダイナミック硬度(DHT)と組成および磁気的性質との関連についての基礎的研究を行った.主な結果は以下の通りである:(1)窒素ガス比が大きい場合は小さい場合に比べて堆積時にアモルファス化が進んだ状態であり,最早,AlN膜特有の柱状晶構造は示さない.(2)Al-Fe複合ターゲットを用いた膜では,堆積膜は磁性を示さないが,熱処理によりFe窒化物(Fe3N,Fe4N)を生成し,さらに高温での熱処理でα-Feを析出することを明らかにした.Al-Co膜ではCo窒化物は生成されず,熱処理温度・時間に関係した磁気特性・電気抵抗変化を示した.いずれの複合膜とも,短時間の焼鈍時間後に飽和磁化の急激な増加があり,その後はほぼ一定であった.電気抵抗の変化は焼鈍温度・時間に敏感であることが分かった.(3)窒素ガス比が大きい場合に作製したAl-Co膜では加熱処理時にCo相とAlN相に分解過程する温度域が窒素ガス比が小さい場合に比べて低く,かつ速やかに分解することが分かった.(4)Al-FeCo膜の作製では,加熱処理時に400℃前後で基板から剥離する現象が観察され,それは加熱時におけるFeN相,Co相およびAlN相の相分解過程に関係していることを熱分析およびX線回折法の結果から明らかにした.(5)購入した超微小硬度計の測定値が従来法の硬さ測定法による数値とどのような対応関係にあるかを標準試料を用いて精密に調べた.その結果,負荷加重を精密に調整することで,薄膜(全膜厚く0.5μm)の構成相の組成とダイナミック硬さを相対的に評価できることを示した.このことは,ダイナミック硬度を精密に測定することで薄膜の成分組成についての情報を得られることを示唆するものとして意義がある.今後はこの測定評価法を.AlN複合膜および他の複合膜に適応しその有効性を確かめる必要がある. 以上の実験結果は,硬さ試験の難しさを除いて当初予想した通りのものであった.今後膜硬さと膜の物理的性質との対応関係を詳細に調べて,測定硬さから膜物質を推定する評価法を確立する必要がある.
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