研究概要 |
現在の医療において用いられている従来の軟組織代替材料はいずれも生体不活性であるために,体内に埋入された際,周囲の生体組織から隔離され,所定の部位に固定され難く,しばしばずれによる疼痛や出血を引き起こすので,臨床使用における問題となる。この問題点を解決するためには,軟組織と同等の柔軟性を有する事に加え,人の組織と直接結合する性質を示す材料が望まれている。本研究は,生体活性な有機-無機複合材料の合成及び力学的性質の制御ならびに細胞・組織適合性に与える材料の微構造の影響を明らかにすることを目的とする。 複合材料の合成にはテトラエトキシシラン(TEOS)及びポリジメチルシロキサン(PDMS)を出発原料に,イソプロピルアルコール及びテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いた。これに硝酸カルシウム及び触媒として濃塩酸(HCl)を加え,70〜80℃で撹拌しながら還流した。得られた溶液をポリスチレン製の容器に入れ,所定の温度でゲル化させ試片を得た。得られた複合体を40℃にて乾燥させた後、固体^<29>Si-NMRでSi元素周囲の局所構造を調べた。ゲル表面及び破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。さらに,試料の密度及び多機能型自動表面積測定装置を用いて試料の気孔率及び比表面積を調べた。構造解析した試料について,擬似体液に浸漬し,表面構造を調べることにより,得られた有機-無機複合材料のアパタイト形成能を調べ,その生体活性を評価した。その結果,触媒の塩酸濃度の上昇及び硝酸カルシウムの濃度上昇は,試料中のSiの局所構造にはほとんど影響を与えないものの,試料に導入されるカルシウム量を増大させる効果があり,試料表面でのアパタイト形成を促進することが明らかになった。さらにいくつかの試料については,シリカ微粉末との複合化により高強度化を試みた。試料へのシリカ微粉末の導入はゲル化過程における粘度上昇を促すとともに,得られる複合体の弾性率を向上させることが明らかになった。
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