高圧流体中でポリマーフィルムの一軸延伸を行なうには、少なくともポリマーが可塑化している必要がある。まず、極性流体であるトリフルオロメタン中でのポリスチレンのガラス転移温度の決定を行なった。高圧流体中でのフィルムの幅の収縮状況からガラス転移温度は決定できる。トリフルオロメタン流体の圧力上昇とともにガラス転移温度の低下が観測されたが、その低下の程度は二酸化炭素流体中でのそれよりもかなり小さいことが明らかとなった。そのため、当初予定していたトリフルオロメタン中での一軸延伸処理実験は中止し、二酸化炭素よりも可塑化能力の高い液体の探索を行なった。六フッ化硫黄と亜酸化窒素について検討した結果、六フッ化硫黄はほとんど可塑化能力がないことが明らかとなった。以上の結果は、流体内のフッ素原子の存在はポリスチレンの可塑化にとって好ましくないことを示している。一方、亜酸化窒素は二酸化炭素よりも可塑化能力は高くガラス転移温度の低下はかなり大きい結果が得られた。また、逆行ガラス転移現象も観測された。亜酸化窒素中で測定温度範囲(273.2K〜358.2K)において約3.7MPa以上の圧力でポリスチレンは可塑化できることが明らかとなった。 以上の結果から、亜酸化窒素はかなり可塑化能力が高い流体と考えられる。今後、予定していた一軸延伸処理、ポリマーに含浸させる試薬の超臨界流体への溶解度測定について亜酸化窒素を用いて検討を行なっていく。
|