本研究の目的は、将来の超高温材料として期待されているモリブデンダイシリサイド(MoSi2)の耐環境性における最大の弱点である加速酸化現象を解明するとともに、その有効な抑制法を明かにすることにある。本年度は、前年度に引き続き各因子の影響を明かにするための系統的な実験を行うとともに、特に加速酸化領域で形成される皮膜の性状を詳細に観察することに重点をおいた。本年度において得られた主な結果は以下のとおりである。 1. MoとSiの同時酸化に基づく加速酸化は673Kから773Kの温度範囲で起りやすい。 2. 加速的な酸化を示すまでには誘導期間があり、その期間後直線的な酸化増量を示し、ペストに至る。この誘導期間は温度依存性が強く、特に700K付近の温度では無視できるほど短い。 3. 透過電子顕微鏡による酸化皮膜の観察から、誘導期間に形成されるSiO_2皮膜内にもMoO_3が混在しているのが認められた。また、酸化皮膜直下の下地には転位の顕著な発生が見られた。 4. 1073K以上の温度では、Siの選択酸化によりSiO_2皮膜が形成されるため優れた耐酸化性を示す。 5. 同時酸化は、酸化初期にはMoSi_2の焼結時に形成されるSiO_2介在物など欠陥部で局部的に起り、次第に表面全体に拡がる。形成されるMoO_3の形態は低温度および酸化初期には4角板状であるが、温度の上昇および時間の増加とともに6角板状あるいは針状に変化する。 6. 同時酸化は、酸化皮膜に生じたクラックを通っての酸素の下地への侵入によって、皮膜/下地界面での酸素ポテンシャルが上昇した結果生じる。
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