研究概要 |
近年特に注目されているレーザ照射による精密・微細加工は,これまでは主に短波長化によってなされてきた.これに対して本研究では,ピコ秒以下の超短パルスレーザによって,新しい超精密・超微細加工を実現することを目的としている. 本年度は,ワークステーション2台を新規購入し,まず超短パルスレーザを金属およびシリコンに照射したときの溶融・蒸発現象を,熱流体解析と分子動力学シュミレーションによって明らかにすることを主に試みた. 熱流体解析では,蒸発潜熱と蒸発に伴う気液界面の移動,蒸発反跳圧力,温度勾配に起因する表面張力(マランゴニ力)を考慮し,自由表面の取扱いにはVOF法を導入することで,蒸発を伴う溶融他流れの数値計算法を確立した. 分子動力学シミュレーションでは,まず金属について,自由電子による熱伝導を補正しながら分子動力学計算を行う改良型分子動力学法を提案し,熱伝導率を計算することでその妥当性を確認した.シリコンについては,Tersoffポテンシャルを用い,多体ポテンシャルと原子間力の計算を可能にし,初期原子配列を構築,原子のレーザ光吸収をモデル化して,溶融・蒸発過程の3次元シミュレーションを行うプログラムを作成した. 2次元改良型分子動力学シミュレーションを行った結果,フルエンスが一定でも,金属の蒸発形態と蒸発後の穴の周囲の盛り上がりがパワー密度によって異なることがわかった。すなわち,パワー密度が高い場合は,原子が比較的大きな固まりとなって爆発するように飛び散り,蒸発しきれなかった溶融金属は,表面張力により球状になって穴の周囲に堆積する.一方,パワー密度が低い場合は,蒸発原子は小さなクラスタを作りながらバラバラに飛散する.この場合は爆発的な蒸発は見られず,溶融金属は穴からあふれるように流出して,周囲に堆積することが明らかになった.
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