研究概要 |
アルブミン,アビジンなどは光学認識部位をもつタンパク質である.こうしたタンパク質をリガンドとしてビーズに固定し,さらにそのビーズをカラムに充填して,キラル化合物をクロマト分離することができる.しかしながら,ビーズ充填カラムには欠点がある.キラル化合物のビーズ内部のリガンドまでの移動が,濃度差によって生じる拡散で起こるため,液を高速でカラムに流すとそれだけ内部へ拡散するひまがなくなり,リガンドは十分に利用されず不利である.そこで,ビーズでなく多孔性中空糸膜を使うことが有効である.厚さ1mm程の多孔性中空糸膜(平均孔径0.3μm,孔の体積分率70%)の内部孔に沿ってリガンド(例えば,ウシ血清アルブミンBSA)を固定する.そこへ液を透過させてリガンド近くまで流れに乗せてキラル化合物を運ぶことを考える.こうすると,ビーズのときの拡散律速の問題は解決される.さらに,タンパク質を孔表面に多層に積み重ねれば,その分,キラル分離能がよくなると考えた. BSA多層吸着多孔性中空糸膜の作成法はつぎの5段階からなる.(1)多孔性中空糸膜(ポリエチレン製)に電子線をあててラジカルをつくる,(2)エポキシ基を有するビニルモノマーを重合させる,(3)プラスの荷電基としてジエチルアミノ(DEA)基を導入するためにエポキシ基をジエチルアミンと反応させる,(4)残ったエポキシ基をエタノールアミンと反応させる,そして,(5)BSA溶液を膜に透過させて,マイナスの電荷をもつBSAを吸着させる.DEA基密度が高くなるとグラフト高分子鎖相互の静電的反発作用によってグラフト高分子鎖がそれだけ長く伸びる.そこにできた3次元空間にBSAが円み重なって吸着する.例えば,転化率80%なら,BSAの積層数は4まで達した.
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