研究概要 |
1.熱誘起相分離プロセスによる非対称膜の作製 熱誘起相分離プロセスにおいて,温度クエンチの前に溶媒の蒸発過程を導入することにより,膜溶媒中に高分子濃度勾配を形成させ,明確な非対称構造を得ることができた.用いた高分子はアイソタクチックポリプロピレンであり,溶媒はジフェニルエーテルである. 溶媒蒸発過程を導入しない場合は均一な対称膜が形成されたが,これは膜の両面での冷却速度がほぼ同様に制御されていることを示している.蒸発時間が増すとともに膜上面での孔径が減少し,顕著な非対称構造が得られた.また,このような高分子濃度勾配に加え膜両面での冷却速度差を負荷した場合には,膜の上面においてスキン層が形成された. 蒸発過程における物質移動と熱移動の式を連立して解くことにより,膜内での高分子濃度勾配をシミュレートすることができた.このような解析を基に,得られた非対称性構造を詳細に論議した. 2.非溶媒取り込み相分離法による非対称膜の作製 ポリフッ化ビニリデンのN,N-ジメチルホルムアミド(溶媒)溶液をガラス板上にキャストし,膜の表面からの空気中の水蒸気(非溶媒)の取り込みと溶媒の蒸発を同時に行うことにより相分離を誘起し,種々の構造の非対称膜を得ることができた.例えば,湿度が低い場合は均質膜が,湿度が高い場合は表面が多孔構造の膜が形成された. このような膜構造と空気中の湿度,キャスト液高分子濃度,キャスト膜厚の関係は,三成分系の相図と膜内の物質移動を考慮したモデル式の解から得られる膜中の組成変化の経路を基に良好に説明できた.また,この方法で作製した膜構造は,浸漬法によるものと全く異なるものであった.
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