研究概要 |
植物が動物と異なる特徴は独自の環状DNAを持つ葉緑体の光合成能にあると言っても過言ではない。植物の代謝工学を総合的に進めるには葉緑体DNAを操作する系の開発が不可欠である。本研究の目的は葉緑体の機能改変の系の確立にあり、クラミドモナス葉緑体DNAを対象に、葉緑体へ導入した有用遺伝子を安定に転写・翻訳させるため、高発現プロモーターおよび高効率翻訳系を開発することを目的とした。 1)葉緑体における外来遺伝子発現系の構築 葉緑体内で転写速度の異なる遺伝子を4種類(rbcL、psbA、psbD,atpA)選び、そのプロモーター領域並びに非翻訳領域とuidA遺伝子(レポーター遺伝子)より構成される融合遺伝子を葉緑体に導入した。得られた形質転換体(RG,PG,PDG,AG)のGUS活性を測定した結果、AGが最も高いGUS活性であり、蓄積しているGUSタンパク質は全可溶性タンパク質の約1.4%となった。しかし、内在遺伝子の代わりに外来のuidA遺伝子を連結した場合に、それらの遺伝子発現様式が内在遺伝子発現のポテンシャルを反映せず、構造遺伝子領域が必要であることが明かとなった。 2)高効率翻訳系の開発 遺伝子発現の翻訳過程、特に開始コドン近傍配列に注目した。その結果、atpA発現系においては開始コドン上流2塩基が、"UU"であることが重要であった。一方、psbD発現系を対象として開始コドン上流2塩基をすべての組み合わせ(16種類)で持つキメラ遺伝子を作製し、翻訳効率を調べたが、2塩基の及ぼす影響はなかった。このことから、非翻訳領域の種類によって、開始コドン近傍配列の重要度が異なることが明かとなった。また、ポリシストロニックmRNAからの翻訳系の構築を試み、部分的ではあるが成功した。 本研究は、クラミドモナスをモデルとした葉緑体工学であるが、ここで得られた基礎的知見は、高等植物の葉緑体工学の基礎となるものであり、今後、農作物・街路樹等の実用植物への応用が期待される。
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