研究概要 |
(1) 炭化タングステン等の前期遷移金属炭化物と過酸化水素水溶液の反応により生じる炭素化学種を13C NMRで観測した結果、溶液中にはシュウ酸種のみが生成していることがわかった。同時にガスクロマトグラフィー観測した気相中には、COおよびCO2の酸化種が生成しているが、メタン等の還元種は認められなかった。これに対して窒化物(WN,MoN,VN,TiN等)は、一般に、還元種のNH4+とともに酸化種のNO3-を同時に与えることが明らかになった。これは、X線光電子分光などの結果を参考にすると、金属ー炭素結合と金属ー窒素結合のイオン性の差異によるものと考えられる。つまり、窒化物ではNの方に電荷が偏っているため、水素イオンが結合し易いものと思われる。 (2) 炭化タングステンを過酸化水素と反応させた溶液から過剰の過酸化水素を分解除去したもののNMRには分解前に存在した化学種のスペクトルは観測されず、これまでに知られていない化学種が生成していることがわかった。このラマンスペクトルにはW-OW伸縮振動に帰属されるピークが認められ、それはWが重合した多核の酸化物クラスターの存在を示唆する。溶液を乾固した非晶質固体を再び溶解して得られ溶液のスペクトルはほとんど同じで、クラスターの構造は溶液相と固相で不変であると思われる。溶液にバリウムなどのイオンを加えた時に析出する非晶質固体のTOF質量分析スペクトルには、タングステン6核及び12核の質量に相当するシグナルが強く観測された。 (3) 上記の固体はシュウ酸が配位したクラスターの凝集体と考えられが、そのプロトン導電性はシュウ酸量とともに指数関数的に増大することがわかった。同クラスター溶液にマロン酸を加えて得られる錯体はさらに大きい導電性を示す。タングステン1原子あたり0.3分子のマロン酸を導入した薄膜の導電率は10-2S/cm(25℃)に達した。
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