研究概要 |
結晶化過程におけるキラル識別機構を明らかにし,分割剤,分割助剤の合理的設計手法を確立すべく,種々の化合物群について系統的に検討を行った。まず,ジアステレオマー塩法で析出する難溶性塩・易溶性塩の結晶構造と分割成績との相関について詳細に比較検討した結果,高い分割成績を与える系では,水素結合,CH…π相互作用,van der Waals相互作用が効率的に働き,難溶性塩を強く安定化していることが分かった。また,多くの系では難溶性塩が共通した結晶構造をとることが分かった。そこで,難溶性塩に見られた特徴的な安定構造を実現すべく,分割剤における水素結合性置換基,芳香環などの立体的位置関係を考慮し,新規光学分割剤として2-naphthylglycolic acid,新規塩基性分割剤としてcis-1-amino-2-indanol等を設計した。その結果,これらが1-arylalkylamine,2-arylalkanoic acid類に対し,高い光学分割能を有することを見出した。このように,クリスタルエンジニアリングの概念に基づき,初めて光学分割剤の合理的設計に成功した。 一方,我々がこれまでに見出している,自然分晶を起こすカルボン酸アミン塩の結晶構造と,高い分割効率が実現されるジアステレオマー塩難溶性塩の結晶構造との間に共通性があることに着目し,ラセミ酸,ラセミ塩基から成る塩についてその結晶構造を検討した。その結果,高い分割効率を与える系において,分割剤,被分割物質双方のラセミ体から塩を調整すると,極めて高い頻度で自然分晶を起こすことを見出した。
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