酵素の活性発現に関する研究では、活性中心近傍のアミノ酸残基と活性発現の関係についての研究がほとんどであり、活性中心付近の酵素を構成するペプチド鎖のコンフォメーションについての研究は皆無と言ってもよい。本研究では、ペプチド鎖の2次構造が酵素の機能発現にどの様に関わっているのかをモデル的に検討することを目的とする。 酵素モデルとしてのメソ位にペプチド鎖を有するポルフィリンを合成した。導入したペプチド鎖はL-イソロイシン、L-メチオニン、並びにD-及びL-アラニンであった。反応としてはこれを触媒とするチトクロームP-450モデルのスチレンまたはp-メトキシスチレンのエポキシ化を行い、CDスペクトルによりその不斉誘導能をペプチド鎖の立体構造と関連づけた。本研究者が開発したペプチド置換ポルフィリンは、過去のモデルと違い、活性中心近傍が開いていても、すなわち立体的に規制してなくても生成物のエポキシドに不斉を誘導した。CDスペクトルによると、同一のペプチド鎖長のモデルでも、溶液中の濃度が希釈されるにつれてペプチド鎖のa-ヘリックス含量が増えることが分かった。またこれにつれて、例えばL-アラニンモデルの場合、ターンオーバー数も、生成するエポキシドの対掌体過剰率も向上することが分かった。この事は、a-ヘリックスが不斉の誘導に何らかの影響を有していることを示唆している。さらにこのa-ヘリックスの作用は、L-アラニンモデルがS-エポキシドを、またD-アラニンモデルがR-エポキシドを生成するという新しい発見からも支持される。一方スチレン誘導体の面区別はそれがモデルに近づいてくるときにすでに行われていることがCDスペクトルの検討から明らかになった。
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