両末端にピレニル基を有するオリゴオキシエチレン化合物(PIC)は、光励起すると両末端のピレニル基間でエキシマーが形成されるため、一時的に環状構造をとりクラウンエーテル的な挙動を示し、溶液中において金属イオンの捕捉効率が増加する、という我々の提出した「光誘起クラウンエーテル」の概念を証明することに成功した。環化構造のとりやすさを明確にするために、両末端ピレニル基間の鎖部分の長さが異なる8種類のPICを合成し、光照射の有無における7種類の金属イオンとの錯形成や輸送の効率について調べた。これらのイオンとPICの錯形成能については、(1)NMRシグナルが、イオンの存在の有無でどのようにシフトするか、(2)ピレニル基間のエキシマー形成効率が、イオンの存在の有無でどのように変化するか、によって調べ、実際のイオン輸送量については、仕切セルを用いて、PICを溶解した四塩化炭素溶液が濃厚な金属イオン水溶液と純水に面するようにして、純水部分のイオン濃度の変化を原子吸光分析で定量化することによって調べた。これらの結論を総括すると、(1)PICはその分子サイズに応じた金属イオンと選択的な相関を示す。(2)相関の高いPICと金属イオンは、常に緩い捕捉関係にあり、(3)光照射によりイオンを捕捉した状態が調整され、より安定に固定されることで、PICによる効率のよい金属イオン輸送が行われるという機構が明らかになった。特に、カルシウムイオンとカドミウムイオンについては、各々のオキシエチレン単位が5個と4個のPICが、紫外光を照射すると、強い選択性を示して輸送することを確認できた。この輸送量については、例えば、3分間の光照射で0.35μM程度の輸送が認められた。
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