研究概要 |
本課題では従来高次構造の影響などのために明らかにできなかった高分子強誘電性結晶のintrinsicな光学物性を結晶物理学的に理解することを目的とし研究を行う.高分子強誘電性結晶としてフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE))を取り上げる.P(VDF/TrFE)結晶はその対称性がC_<2V>で分類されることから5個の独立なintrinsicなPockelsテンソル成分が存在する.ここでは,まずこれを求め,光学物性を結晶物理学的に解析することを目指している.また,測定用フィルムとして,以前大東(研究分担者)等により報告された,高度に二重配向したほぼ非晶相のない“単結晶状膜"を作製した.本年度は以下の成果を得た.(1)電気物性同時測定型高分子薄膜用電気光学効果測定装置の開発:高分子薄膜は一般に40〜50μmのものが通常用いられる.各Pockelsテンソル成分を求めるためにはlaser beamをフィルム表面に垂直に入射する他,厚み方向に垂直に入射する必要がある.そのために,He-Ne laserのbeam径(1.1mmφ)を30μm前後にまで偏光状態を保持しながら絞る必要があるが,特殊レンス系を設計し,これを実現した.また,異方性の高い結晶は自然複屈折が大きいが,これを打ち消せねばPockels効果による微小な複屈折の変化を検出できないが,Berek型コンペンセ-タを改良し,変調型電気信号系を自作することでPockels効果の正確な測定を可能にした.更に,動特性を解析できるように,高圧電気系を自作しD-Eヒステリシス測定中のPockels効果を測定できるようにした.(2)温度セルの開発:強誘電性高分子結晶の相転移近傍の挙動を解析するための,微弱な光信号を欠損しない温度セルを理化学研究所の協力を得て自作した.(3)今まで得られたことのない(5個のPockelsテンソル成分のうち)3個のPockelsテンソル成分の評価に成功した.その結果,一つは異符号で,見かけのPockels定数は10pm/Vと大変大きくなる(従来のラメラ膜の25倍)ことが分かった.
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