研究概要 |
本研究は,強誘電性高分子薄膜の光学物性(特にPockels効果)を結晶光学的に追求することを目的としている.昨年度試作した測定システムの大きな特長は,従来困難であった膜厚方向に垂直にlaser光を入射することで,三次元的にPockels効果の測定が可能になったことである.更に本年度は,エリプソメータ法を基に,屈折率の三次元的異方性及び膜厚変化を同時に測定できる装置を試作し,測定システムに組み込んだ.その結果,本システムは,高分子薄膜の(1)屈折率楕円体の測定(2)膜厚変化に起因する見かけの光学物性の補正(3)Pockelsテンソル成分の正負を含めた測定を可能とした.試料は,高次構造を制御したフッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE))を主に研究対象とし,新たな材料として蒸着重合した不純物の殆どないポリ尿素をとり上げた.本年度得られた主な研究成果は以下の通りである.(1)P(VDF/TrFE):屈折率楕円体および5個の独立なPockelsテンソル成分γ_<ij>^T(i,j=1-6)の測定に成功した.その結果,P(VDF/TrFE)膜全体が二軸結晶的に振る舞うこと,γ_<13>^T,γ_<23>^Tが正,γ_<33>^T,γ_<42>^Tが負,γ_<51>^Tが零であるという特徴ある結果が得られた.解析を進めた結果,Pockels効果は,電界の印加により体積変化が起こる高分子独特の寸法効果が支配的であることを見出した.(2)ポリ尿素:Pockels効果は比較的大きく,不純物の影響の少ない光機能性高分子として大きな可能性があることが分かった.以上,完成した測定システムを用いることで,高分子薄膜でも,従来困難であった結晶光学的研究(屈折率楕円体を中心とした議論)が可能であることを示すことができた.今後これらの研究成果を,高分子薄膜の光機能発現機構の解明や新材料の設計に役立てたい.
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