研究概要 |
本課題の目的は,高分子強誘電性結晶の光学物性を,結晶光学的手法を駆使し,解明することである.最近,強誘電性高分子の高次構造を制御する技術が進歩し,高度に二重配向したほぼ非晶相のない膜が作製されるようになった.この膜では,マクロな軸と結晶の軸を対応させることが可能になり,結晶光学的研究が可能になる.一方,触媒を使わず不純物の混入が無く,合成・製膜・成形を同時に行う蒸着重合法が注目を集めている.本研究では,試料として,前者の方法でフッ化ビニリデン/三フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE)),後者の方法でポリ尿素(PU)を作製した.以下に得られた重要な成果をまとめる. 1. 高分子薄膜用電気光学効果測定装置の試作 高分子薄膜の屈折率楕円体の測定を行う精度の高い汎用的な市販装置は,現在,見あたらない.そこで,(1)厚み(40)μm以上の膜の屈折率楕円体の測定(2)膜厚変化に起因する見かけの光学物性の補正(3)Pockelsテンソル成分の正負を含めた測定が可能な装債を試作した. 2. P(VDF/TrFE)膜 P(VDF/TrFE)膜の屈折率楕円体・ヒステリシス測定中のPockels効果の測定を行い,得られた結果を解析し,膜全体が単結晶的に振る舞うことを証明した.また,系の対称性から予測されるすべてのPockelsテンソル成分の測定に成功した.その結果,この膜のPockels効果は電界により体積変化が起こる高分子独特の寸法効果が支配的であることを見出した.また,試作したPockels素子が10pm/V(LiTaO_3の1/5)と驚異的な値を示し,十分実用可能であることを示した. 3. PU膜 PUは強誘電性に疑義を持たれていたが,精密なswitching測定を通して強誘電性分極反転の存在を証明した.また,そのPockels効果は比較的大きいことが分かり,光機能性高分子として大きな可能性があることを見出した.
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