研究概要 |
本研究の目的は、繊維・高分子の非晶構造解明のための固体NMRの手法を開発し、その非晶構造ならびにグイナミクスを明らかにするとともに、その物性との関連を解明することである。 研究対象は、様々な部位を^<13>C,^<15>Nおよび^2Hで同位体ラベルされた家蚕およびエリ蚕絹、^<13>Cラベル毛髪ケラチン、ポリ乳酸等である。研究手法は、角度依存固体NMR、重水素固体ダイナミクスNMR、等方的 NMR 化学シフトの決定と化学シフト計算、固体スピン拡散NMR、REDOR法等であり、各種測定は、CMX 400 MHz固体NMR装置を用いた。 例えば、安定同位体ラベルエリ蚕絹について、角度依存固体 NMR測定によって配向成分の主鎖内部回転角を決定することができた。家蚕絹同様、βシート構造をとる。その配向成分の割合の決定から、延伸初にAla連鎖部分がβシート構造を形成し、Gly残基の存在する領域は延伸によって引き延ばされると考えられた。エリ蚕絹の配向成分の割合が家蚕と比べかなり少ないこと、Gly残基の配向軸方向の乱れが大きいなどの要因が、二種類の絹の力学的物性の差に反映されるものと結論した。 また、重水素ラベル家蚕及びエリ蚕絹の固体重水素NMRから、Ser側鎖には運動状態の異なる二成分が存在し、遅い成分は、Ser側鎖水酸基の関与した水素結合形成に対応した。一方、家蚕及びエリ蚕絹のTyr環の運動は、二成分で解析でき、家蚕絹では速いflip-flop成分が20%、エリ蚕絹では60%に増加した。家蚕絹ではTyr残基はβsheet中に巻き込まれ大部分動きにくい状態に存在する一方、エリ蚕絹では周囲により動ける空間が存在することを示す。これが、二種の絹間の例えば力学的損失正接tariδの値の違いに対応すると考えられた。 さらに、40個のタンパク質の原子座標と化学シフトのデータベースに基づいて、^<13>C NMR化学シフトの(φ,ψ)マップをアミノ酸残基毎に作成、それを家蚕絹の繊維化前後の各々Silk I,Silk II型構造及びエリ蚕絹の繊維化前後の各々、α-helix,β構造の解明に適用した。 その他、固体スピン拡散NMR、REDOR法を新たに絹構造解析に適用するとともに、ケラチン、ポリ乳酸の^<13>CNMR固体構造解析を行い、構造と物性との関連について研究した。 以上のように、繊維・高分子の非晶構造解明のための固体NMRの手法を5種類程、開発でき、その非晶構造ならびにダイナミクスの検討をすすめ、その物性との関連を解明することができた。成果の詳細は、投稿中を含め、合わせて、34報にまとめることができた。
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