気水界面の吸着力により作製された高分子単分子膜、あるいはそれを固体基板上へ累積することによって得られる擬二次元系である高分子超薄膜について、以下のような、高分子科学としての基礎的問題に対する解答を得ることを目的として研究を行った。 (1)絡み合い点の面密度、絡み合い点間分子量の評価 気水界面で生成する高分子単分子膜の基本物性である表面粘度を広い分子量範囲で測定することにより、膜中での分子鎖の絡み合いについての評価を行った。その結果、擬二次元系では高分子鎖は凝縮し、少なくとも百万までの分子量域において有効な絡み合いを持たないことを証明した。 (2)ナノスケールでの緩和時間と構造緩和形態の測定 蛍光偏光解消法を気水界面の高分子単分子膜に適用し、膜のミクロなナノ秒域の運動性を測定した。単分子膜のマクロ粘性と関連して、ミクロ運動は分子鎖主鎖の柔軟性や疎水性側鎖の凝縮性により支配されていることを明らかにした。 (3)高分子鎖の二次元慣性半径の評価 分子スケールでの距離測定を行いうるエネルギー移動法を用いて高分子単分子膜中における単一高分子鎖の二次元慣性半径の評価を行った。その結果、膜中の高分子鎖は凝縮し、自己回避型自由鎖よりも遥かに小さな慣性半径をもつことが明らかにされた。高分子超薄膜の示す特異な構造緩和挙動の原因を分子レベルで明らかにすることができた。
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