高分子ゲルは、一般に架橋剤存在下でのモノマーの重合、または高分子溶液の架橋反応によって得られる。こうして出来たゲルには、ゲル特有の著しい「不均一性」が現れることがシネリシス、あるいは散乱実験などから経験的に知られていた。高分子ゲルではこの「不均一性」のために、浸透圧などのように熱力学理論によって記述される性質と、散乱実験などによって評価される構造との対応は一意的ではない。本研究では、まずゲルを「静的不均一成分」と「動的熱ゆらぎ」の「2種のゆらぎからなる動的な協同相関系」として捉えることで、ゲル固有の複雑性を単純化・捨象化し、ゲルの静的・動的描像を統一的かつ系統的に特性化することから始めた。そして、その成果をもとに光子相関法による高分子ゲルの反応速度論の解明と構造制御の研究として体系化した。これらの研究において中心的役割をなした手法が2種類の光子相関法である。その一つはアンサンブル平均動的光散乱法であり、多数点での動的光散乱測定により非エルゴード系であるゲルの性質を定量的に解明する方法である。これにより、濃度揺らぎの静的および動的成分への分離が可能となり、さまざまな系においてゲルの定量的記述が可能となった。特に、弱荷電高分子ゲル系では、荷電基の導入にともなうゲルの膨潤とそれに拮抗する網目分子の疎水性相互作用により、数十nmの次元で起こるミクロ相分離構造が発現する。こうした系に対しては、動的光散乱法のみならず小角中性子散乱法も加えた構造解析をおこなった。もう一つの光子相関法は時系列動的光散乱法で、文字通り動的光散乱実験を時系列的に行う手法である。同手法は化学反応系に於けるダイナミクスのリアルタイム観察を可能にし、瞬時に起こるゲル化の機構をも明確にとらえるなど、高分子物性(ゲル化点近傍の臨界ダイナミクスの研究)のみならず、高分子合成化学に対しても大きなインパクトを与えた。
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