平成9年度は、まずホメオスタシスに関する因子の一つとしてNDPキナーゼ遺伝子に注目し、その生理機能を調べる目的でイネに遺伝子導入を試みた。現在、形質転換植物について発現量の解析を進めると同時に、ホモ個体の確立を目指して研究を進行中である。また、非生物的環境因子の一つである冠水ストレスによって発現が誘導される細胞分裂関連因子についても解析を行なった。冠水条件下のイネでは、介在分裂組織における細胞分裂の活性化によって節間伸長が促進され、ストレス耐性の獲得に結び付くことが知られている。そこで、細胞分裂の活性化に関与するサイクリンについて、in situ hybridizationによって細胞周期依存的な発現パターンの解析を試みた。DAPI染色による核の形態と各サイクリンの発現を対応させることによって発現時期を詳細に解析した結果、分裂期に働くサイクリン遺伝子群について、G2〜M期での発現時期をAタイプ・Bタイプの二種類に分類することに成功した。また、サイクリンの発現が酵母の生育に与える影響を観察した結果、同じBタイプに属するサイクリンでも、その機能に差異があることが示唆された。一方、部分的なcDNA断片しか単離されていなかったイネの分裂期サイクリンに関して、cDNAライブラリーをスクリーニングした結果、全長をコードするクローンの単離に成功した。 以上のように、平成9年度はほぼ当初の研究計画を遂行でき、平成10年度に向けての基礎的な知見を得ることができた。
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