研究概要 |
当初の研究計画通り,本年度は,まずオウトウ(P.avium)やウメ(P.mume)あるいはニホンスモモ(P.salicina)やア-モンド(P.dulcis)などの配偶体型自家不和合性を示すPrunus属果樹の自家不和合性に関与するS-RNaseの同定と,S-RNaseをコードするcDNAの単離を試みた.その結果,上記4種のPrunus属果樹の全てにおいて,花柱に存在するS-RNaseを2次元電気泳動ゲル上の塩基性領域に同定することが出来た.2次元電気泳動で同定されたS-RNaseのN末のアミノ酸配列をペプチドシーケンサーで決定した.N末のアミノ酸配列をもとに作成したオリゴヌクレオチドを用いた3'RACEによりS-RNaseのcDNA断片の単離に成功した.これらのcDNA断片をプローブとして用いて,花柱から作成したcDNAライブラリーをスクリーニングすることで,S-RNaseの完全長cDNAを単離することに成功した.これらのPrunus属果樹のS-RNaseのcDNAの塩基配列より推定されるアミノ酸配列は,Prunus属と同じバラ科(Rosaceae)に属して,Prunus属果樹と同じタイプの自家不和合性を示すリンゴ(Malus x do mestica)やニホンナシ(Pyrus serotina)のS-RNaseのアミノ酸配列とはかなり異なることが明らかになった.このことはこれまでリンゴとニホンナシのS-RNaseのアミノ酸配列のみに基づいて推測されていたバラ科植物のS-RNaseの分子進化を考える上で重要な知見となるものと考えられた.続いて,次年度以降の形質転換実験のために,オウトウのシュート培養系の確立を試みた.萌芽約1ヵ月後の新梢先端部をゼアチン3μMを添加したMS培地で培養することで,オウトウ7品種のシュート培養を行うことが出来た.
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