研究概要 |
オウトウやウメ,あるいはニホンスモモやアーモンドなどのPrunus属果樹の多くは,配偶体型の自家不和合性を示す.本研究は,これら配偶体型自家不和合性を示すPrunus属果樹を材料に,自家不和合性機構を解明し,得られた情報の園芸育種学的な利用をはかるものである.これまでの研究で,カンカオウトウ,ウメ,ニホンスモモ,およびアーモンドの配偶体型自家不和合性に関与するS-RNaseを同定し,それらS-RNaseをコードするcDNAを単離することに成功した.最終年度である本年度は,このcDNA用いて自家和合性のカンカオウトウの形質転換体を作出するために必要なオウトウの再生系の確立と自家和合性4倍体種のサンカオウトウの自家和合性の遺伝様式と倍数化による和合化機構を検討するため実験を行い,以下の結果を得た. まず,オウトウの再生系についてであるが,カンカオウトウとサンカオウトウ数品種供試して,シュート培養系を確立した.これらのシュートからリーフデノスクを作製し,種々のオーキシンとサイトカイニンを様々な濃度で組み合わせて添加した培地上で培養して,不定芽形成を試みた.その結果,NAAを0.54μM,TDZを22.7μMの濃度で添加したWP培地上でリーフディスクを培養することで,メテオール,モロー,紅秀峰の3品種では不定芽形成が見られることが明らかになった. 次に,サンカオウトウにおける自家和合性の遺伝様式に関する研究であるが,自家和合性個体と自家不和合性個体が分離しているF1集団を用いてS対立遺伝子の遺伝様式を調査した.その結果,これまでに提唱されている仮説である花粉内に異なる2種類以上のS因子が存在すると,花粉の認識機構が崩れるという説に相反する結論が得られ,サンカオウトウの自家和合性はこれまでの説では説明出来ない複雑な機構で制御されている可能性が示された.
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