研究概要 |
平成10年度は、まず、Schizotetranychus miscanthiにみられる行動の地域変異について、わが国に2つの行動、形態および分子レベルで異なる系統が存在することを確定した。この成果はBehav.Ecol.Sociobiol.誌に投稿し受理されている。 また、平成9年度に収集された、Tetranychus属、Eotetranychus属、Schizotetranychus属,Oligonychus、PnanonychusのDNA変異および形態変異を検討した。さらに、中国政府の招待による視察訪中を機会に、中国大陸のSchizotetranychus属のハダニ3種の標本を参照のために借用し、標本を作成した。前年度にハダニ類の胴体部形質において、標本や保存条件に対して特に安定な形質が、opisthosomal venterに存在することが判明した点をさらに検討し、これについての論文を投稿した。これらの形質は、今後ハダニ類を相対成長の視点から解析する際に体サイズ(体長、体幅)の指標を得る上で重要なものであるばかりか、植物に対する適応能を含む行動生態的な適応を反映しており、外部形態を分類に使用する場合に考慮すべき重要なものであることが判明した。 一方、DNAの変異分析については、前年度に決定されたSchizotetranychus属の種についてミトコンドリアDNAのCOI領域の取り出しおよび塩基配列に新たな種を加え、さらに国外ですでに決定されている同部位の配列情報をもとに、最尤法を含めた複数の方法を用いて系統解析したところ、従来形態から提案されてきた属の系統関係は、計画段階で予想された通り、変更される必要があることが示唆された。一方、前年度からの課題であったリボソームDNAのITS2部位の配列決定には方法上、多くの問題が残り、配列の決定と比較は今後の問題として残された。
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