研究概要 |
本研究は,Polymyxa betae菌によるbeet necrotic yellow vein virus(BNYVV)の伝搬機構について解析したものである.Polymyxa属菌の分化型には,P.graminisとP.betaeがあり,さらにP.betaeには,テンサイやアカザ,スベリヒユ,アオビユなどに寄生する分化型が存在する.各種分化型についてウイルス伝搬性について検討した結果,BNYVVはテンサイに寄生する苗によってのみ特異的に伝搬されることがわかった.P.betae菌とBNYVVの寄生性について調べたところ本菌は多くの植物の根に感染することがわかった.しかし休眠胞子は観察されなかった.P.betae菌の感染に伴いこれまで非寄主とされていた植物にもウイルスが感染した.とくにNicotiana benthamianaは感受性が高いことから,有効なウイルス検定植物として利用できることがわかった.BNYVVのRNA2にコードされている外被タンパク質読み過ごしタンパク質のC末端領域が菌伝搬性に必須であることが証明された.BNYVVのRNA3,RNA4およびRNA5のcDNAからin vitroで感染性のある転写系を確立した.人工的に作成したRNA3,RNA4,RNA5の各種組み合わせをRNA1とRNA2を含むウイルスRNAとともに接種した結果,RNA3とRNA5は病徴発現に関与していることがわかった.RNA5またはRNA3にRNA4が加わると菌による伝搬性が向上し,ウイルスの安定性が高まった.RNA4は菌の伝搬効率を高める機能を持つことが証明された.RNA3およびRNA5にコードするP25およびP26タンパク質遺伝子を大腸菌の系を用いて発現させ,特異的抗体を作製した.感染植物での発現実験から,これらのタンパク質はBNYVVのウイルスの増殖や病徴出現に強く関与していることが示唆された.P25遺伝子の内部欠失変異株もつP.betae菌を用いた接種試験から,P25タンパク質は感受性品種ではそう根症状を起こし,抵抗性品種では,根のウイルスの増殖を抑制する機能をもつと推定された.
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