家蚕核多角体病ウイルスには、多角体遺伝子の変異株がいくつか知られている。多角体の形を、六角形にする遺伝子が一般的であるが、四角形にする遺伝子もある。そこで最初に、それらの遺伝子構造を解析し、そのプロモータ領域についても解析を進めた。遺伝子構造を解析した結果、六角形と四角形の多角体遺伝子には、何ヶ所かの塩基置換が検出され、アミノ酸配列に反映する2箇所の変異が観察された。そこで、家蚕核多角体病ウイルスの六角形と四角形の多角体遺伝子をバキュロウイルス・ベクター(Ac系)に組み込み、その発現を調査した。その結果、カイコの六角形と四角形の多角体遺伝子は、AcNPVの系でも、それぞれ正常に多角体の形を発現することが明らかになった。2箇所の変異のうち、どちらの変異が影響するのかを解明するため、目下、家蚕核多角体病ウイルスの六角形と四角形の多角体遺伝子にポイントミューテイションを導入し、その発現に関する調査を続行している。 核多角体病ウイルスの多角体は、カイコのほとんどすべての体組織で形成されるが、中腸組織では、ほとんど形成されない。ところが、中腸に多角体を形成しやすい変異株もある。この変異株では、1)多角体遺伝子のプロモータに変異があり、さらに強力なプロモータとなっているか、2)中腸における核多角体病ウイルスの増殖力を増大させるような変異が起きている可能性が極めて高い。多角体遺伝子のプロモータに変異を詳細に調査した結果、大きな変化は存在しないことが明らかになった。そこで、2番目の可能性が高いのではないかと考え、目下、多角体遺伝子の発現と他の遺伝子との関係を続行調査している。
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