スフィンゴ脂質から脂肪酸が外れたリゾスフィンゴ脂質は、スフィンゴ脂質代謝異常症の細胞において蓄積されることが知られている。一方、リゾスフィンゴ脂質は正常組織には微量しか含まれていないが、細胞分裂促進やPKC阻害などの生理作用を持つことから、細胞内情報伝達系の調節因子としても注目されている。今回、リゾスフィンゴ脂質が神経系の細胞にアポトーシスを誘導することを見いだしたので、その誘導機構の解析した。リゾsphingomyelin、リゾGM1、リゾGM2、リゾGalCerは5%血清存在下でマウス神経芽腫瘍細胞Neuro2aのDNA合成を濃度依存的に抑制し、40〜80μMの濃度でアポトーシスの指標とされるクロマチンの凝縮ならびにヌクレオソーム単位でのDNAの断片化をひきおこした。しかし、同濃度のsphingomyelin、GM1、GM2は細胞に障害を与えなかった。リゾスフィンゴ脂質によるDNAの断片化に先立って、caspase-3様酵素の一過的な活性化が認められたが、caspaseの膜透過性阻害剤ZVAD-fmkを添加してもアポトーシスは抑制されず、caspaseとは独立したシグナル伝達経路の存在が示唆された。一般に神経細胞に対する効果的なアポトーシス誘導剤は知られていない。事実、血球系の細胞に対して有効なアポトーシス誘導剤であるactinomycin D、camptothecin、cycloheximide、valinomycinはNeuro 2a細胞に対してはアポトーシスを誘導しなかった。本研究によってリゾスフィンゴ脂質は神経系の細胞に対するアポトーシス誘導剤としても有用であることが示された。
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