研究概要 |
オカダンゴムシ(Armadillidium vulgare)の雄から造雄腺のみを摘出し,これを造雄腺ホルモン(androgenic gland hormone)の抽出材料とした.造雄腺ホルモン活性は試料を若い雌に注射した後,その雌が脱皮したときに雄の性特徴である生殖内肢が認められるかどうかで判断する従来の方法を用いた.約2000匹由来の造雄腺をトリス塩酸緩衝液中でホモジナイズし,得られた抽出液を直接,ODP-50を用いた逆相HPLCに流し,0.05%トリフルオロ酢酸中アセトニトリルの濃度勾配溶出を行った.その結果,活性はアセトニトリル濃度約30%で溶出される画分のみに回収された.これを濃縮した後,μBondasphereカラムに流し,ほぼ同様の条件で溶出したところ,活性はアセトニトリル濃度約28%で溶出される画分にのみ回収された.この画分をさらにOPDカラムを用い,溶媒を0.05%ヘプタフルオロ酪酸中でアセトニトリルによる濃度勾配溶出を行ったところ,活性はアセトニトリル濃度約35%で溶出された1つのUVピークに回収された.この3段階の逆相HPLCによる活性画分のタンパク量はわずか0.16μgであり,その38pgを注射したとき,雌の雄性化を促した.この値はこれまで得られた最も少ない量であり,精製がかなり進んでいることを示唆した.現在,さらに精製方法を検討している.一方,粗精製品を用いて,活性を指標にして造雄腺ホルモンの物理化学的性状を調べたところ,熱に対して安定であるが,トリプシン消化,SH試薬による還元により失活したことからジスルフィド結合を含むタンパク質と考えられた.また,ゲルろ過の溶出位置から,分子量は約12,000であることが推定された.
|