研究概要 |
甲殻類における性分化は内分泌的に制御されていることがわかっている。すなわち,雄においては造雄腺という独特の器官が発達し,ここから造雄腺ホルモンが分泌され,雄の性特徴を発達させる。このホルモンを若い雌に注射すると雄へ性転換させることができる。オカダンゴムシを材料にしてその造雄腺を集め,緩衝液を用いて抽出した。粗精製物を用いた実験から,造雄腺ホルモンは熱に安定であり,分子内にジスルフィド結合を含む分子量11,000-13,000のタンパク性物質であることがわかった。この抽出液についてイオン交換HPLC,それに続く2回の逆相HPLCによって,約2万匹の造雄腺から最終的に38pgで活性を示す画分を得た。N末端アミノ酸配列分析の結果,各サイクルで2つずつのPTH-アミノ酸が同定されたが,SDS-PAGEや質量分析では高純度であるという証拠は得られなかった。別のロットから精製した同程度の純度を有する精製画分について還元カルボキシメチル化し,回収されたペプチドについて配列を解析したところ,先に解析した未処理のペプチドの一方の鎖である可能性が示された。さらに別のロットからの精製物の配列解析は最初の解析とほとんど同様の結果となった。以上の結果から,造雄腺ホルモンは2本鎖のペプチドである可能性が極めて高いと考えられた。現在,部分ペプチドを合成し,抗体を作りつつあり,この抗体が活性を吸収できることを期待している。一方,cDNAのクローニングも進行中であり,PCRによって造雄腺ホルモンcDNAの一部と考えられる断片を増幅することに成功している。近い将来,塩基配列からホルモンの全アミノ酸配列が推定できるものと考えている。また,遺伝子発現の系でこのホルモンを人工合成し,活性を確かめたい。まだ,構造が確定したわけではないが,ホルモンの存在が最初に示されて以来45年でようやくホルモンの本体が見えてきたと考えている。
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