本研究は、細胞内における大規模なタンパク質分解を担うオートファジー(自食作用)の調節に関わる未知の物質群を検索する試みである。本年度の研究計画に基づいて得られた成果は以下の通りである。 (A)アミノ酸の情報伝達因子の検索:昨年に引き続き、バイオアッセイ系作成のための細菌毒素α-トキシンの精製法を改良・工夫した。ロットにより細胞膜に形成する微小孔の性質が異なり、数ロットの検討により何とか使用可能なものを得ている。活性因子は今回酢酸エチルでの溶媒抽出では塩基性画分にあることを示した。また、アミノ酸の作用点としてリソソームでの分解段階ではなく自食胞の形成段階が予想されているが、^<14>C-sucroseの自食胞画分への取り込み実験から、この活性画分がそこに作用することが示され、我々の探っている活性因子の妥当性を強く支持した。 (B)アミノ酸のシグナリング機構の解祈:グルカゴンによりリン酸化されるタンパク質の検索は現在事情により中断している。そのかわり、テーマAとの関わりでオートファジーに対するアミノ酸の作用機構を探るべく、タンパク質合成に関わるPhosphatidylinositol 3-kinaseやp70 S6 kinaseがオートファジーにも関わる可能性を探った。特異的阻害剤であるWortmanninやRapamycinを用いて検討した。その結果、アミノ酸のシグナリングには両者とも全く作用せず、自食胞の形成段階にWortmanninのみが作用することが判明した。 (C)自食作用成熟段階に関わるGTP結合タンパク質について:本計画での中心である細菌毒素ストレプトリジンOの標品に問題が出てきたため、大きな支障が出ている。したがって、現在はバイオアッセイ系としてin vitro系である自食胞とリソソームの融合系の開発に重点を移している。幸い、融合反応のプローブとして細胞質酵素Betain homocystein methyltransferaseの限定分解系を利用できそうであり、本分野で初のin vitro系の成功が期待される。
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