研究概要 |
本研究は,材線虫病の病徴が進展していく過程で引き起こされるマツ樹体の全身的な水分通道の低下過程を,物質レペルから追究することを目的とした。 まず,病徴進展の過程て引き起こされる通道阻害はモノテルペン類によらないことが明らかにされた。そこで,キャピテーションの発生原因を木部樹液の表面張力に着目した。その結果,材線虫接種後に著しく表面張力が低下した樹種では,病徴の進展が速やかで枯死率が高かった。これに対して,表面張力の低下が遅い樹種では病徴の進展は遅く枯死率が低かった。この結果から,材線虫感染後の表面張力の低下が病徴の発現と密接な関係にあることが明らかにされた。従って,材線虫の感染に対する表面張力の変化が病徴の発現を制御する要因であり,また材線虫病低抗性と密接な関連を持つことが示唆された。 そこで,木部樹液の表面張力を低下させる原因物質について,材線虫代謝産物の閉与について検討を行った。その結果,材線虫を増殖させた培地の抽出液には表面張力の低下を引き起こす物質が認められなかったことから,表面張力低下の原因物質は材線虫の感染に伴ってマツが産生する異常代謝産物であると考えられた。 キャピテーションの発生を促進する蓚酸が材線病の病徴の進展に関与するか否かを知る目的で,材線虫を増殖させた培地抽出液のガスクロマトグラフィーによる分析を行った。その結果,材線虫は蓚酸を産生し,近縁種で非病原性のニセマツノザイセンチュウは蓚酸を産生しないことが明らかにされた。これらのことから,材線虫の産生する蓚酸がキャビテーション発生の原因物質の一つであることが推測され,蓚酸産生能の違いが病原性と関連する可能性が示唆された。
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