研究概要 |
魚類養殖上の大きな問題となっている単生類は、孵化幼生が魚体表面の何らかの物質を認識したのち宿主上に着底すると考えられている。しかし、その物質の本態については全く分かつていない。そこで、着底誘導物質の性質解明および精製を目的に以下の実験を行った。 1. 宿主特異性の低いNeobenedenia girellaeとブリ類にのみ寄生するBenedenia seriolaeという2種のはだむしの孵化幼生について、魚体表上皮抽出物中の着底誘導活性の測定法を開発した。この測定法を用いて、着底誘導活性の性質を検討した結果、両種において活性に魚種間の差はほとんど無いこと、誘導活性は熱耐性であることが明らかとなった。一方、トラフグに寄生するえらむしHeterobothrium okamotoiでは、本来の宿主でないヒラメ、ブリの体表粘液に対する着底誘導活性はトラフグの場合より有意に低かった。 2. N.girellaeではWGA,B.seriolaeではCon Aという特定のレクチンが誘導活性を阻害することが明らかとなった。この結果、着底誘導物質は糖蛋白あるいは多糖等の糖関連物質であることが示唆された。 3. H.okamotoiの孵化幼生はトラフグの鰓に着底した場合は速やかに吸血を開始したが、本来の宿主ではないクサフグ、ヒラメ、マダイでは着底できても宿主血液の消化吸収能力が劣るか欠けているため脱落した。 4. 上記で開発した活性測定法を用いてN.girellae孵化幼生に対するヒラメ体表上皮抽出物中の着底誘導物質の精製を試みた。着底誘導物質は陰イオン交換樹脂でNaCl濃度0.2-0.3Mで溶出され、ゲルろ過では排除限界以上の分子量を示した。しかしながら,未だ完全精製にはいたっていない。 5. 孵化幼生の着底時の宿主認識能力、宿主からの栄養摂取能力、宿主の生体防御反応に対する抵抗性の有無なとによって宿主特異性が発現すると考えられる。これらの能力はベネデニア亜科のはだむしと多後吸盤類のえらむしでは異なることが示唆され、単生類の宿主特異性は単一の要因で決定されるものではないと考えられた。
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