1. 不動化したコイの脳を露出し、金属微小電極を中脳の内側縦束核(Nflm)に刺入するとともに、脊髄運動ニューロン(MN)の活動をモニターするために、体側筋にエナメル線電極を装着した。この手術に本年度購入した手術用顕微鏡を用いた所、大変に有用であった。 2. 皮膚を機械的に刺激し、遊泳運動時と同じ活動神経である仮想的遊泳運動を誘起する。その時の、Nflmニューロン(Nflm-N)の活動とMNの活動の時間的関係を比較したところ、MNのバーストが規則正しく続く間、持続的にスパイクを発生するNflmニューロン(tonic-N)と、MNのバーストが不規則にしか起きないときに、これに先立ってスパイクを短時間発生するNflm-N(phasic-N)の2種類が観察された。 3. 脳の記録電極をneurobiotinを充填したガラス電極に変えて、神経活動の記録後に記録したニューロンを標識したところ、tonic-NはNflmの正中部腹側に多く、phasic-Nは比較的外側部に分布することが分かった。これらのニューロンの軸索は内側縦束に入る。しかしながら、Nflm-Nの軸索を脊髄内の運動柱まで追跡することはできなかった。 4. 以上より、Nflm-Nには少なくとも2種類のポピュレーションがあり、tonic-Nは脊髄のリズム生成回路を賦活することにより、波状運動による通常の遊泳運動を引き起こし、一方、phasic-Nは方向転換時などに間欠的に活動するものと推察された。この場合、phasic-NがMNに直接シナプスしている可能性もある。 5. 脊髄から逆行性に標識されたNflm-Nの数は約120、抗グルタミン酸抗体で免疫染色されたNflm-Nの数は約400であった。両者の細胞体の大きさは重なるので、運動の誘起に関わるNflm-Nはグルタミン酸作動性と考えられる。
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